企業のコミュニケーション活動に潜む著作権侵害リスクとは

vol.112

企業のコミュニケーション活動に潜む著作権侵害リスクとは

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Sonoko Senuma

企業のあらゆるコミュニケーション課題に向き合い、その解決方法を探る、アマナ主催のイベント「amana Brand Communication Day 2023 Spring」が2023年5月24日、25日と2日間にわたり開催されました。8つのテーマを切り口に、先進企業の方々をゲストに迎えたトークセッションや講演、マーケットの今と未来をとらえたセミナーを実施。今回は、テーマ「企業のコミュニケーション活動に潜む著作権侵害リスクとは」の回を紹介します。


SNSやWebサイトなどを通して企業自ら情報発信する機会が増えたことで、権利トラブルが発生するリスクも増しています。「知らなかった」では済まされず、知識不足な状態での情報発信は、ブランド毀損にも繋がりかねません。このセッションでは、企業の情報発信における著作権まわりの注意ポイントを、知的財産権に関して多方面でご活躍の福井健策弁護士をゲストに迎え、撮影、SNS、オンラインでの配信、AIのカテゴリごとに解説しました。ファシリテーターはアマナでクリエイティブライツセクションのマネジメントを担当する野口貴裕が務めました。
※本イベントはアマナの『deepLIVE™️』スタジオから配信を行いました。

かんたん解説、著作権の基礎知識

野口貴裕(アマナ/以下、野口):企業のみなさまはコミュニケーション活動を行う際、著作権をどのくらい意識されているでしょうか? 著作権への認識を誤ってしまうと、ブランディングどころか、かえってブランドを毀損する恐れも出てきます。このウェビナーでは、企業が情報発信する際、権利上気をつけておくべきことについて弁護士の福井先生にわかりやすく解説していただきます。

さっそく、1つ目の質問なのですが、企業の広報物に他社のロゴが写っている場合、これは気にしたほうがよいのでしょうか?

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福井健策(弁護士/以下、福井):実際よくある事例ですね。では、回答の前に、著作権の基本について簡単におさらいしていきましょう。

著作権とは、思想や感情を創作的に表現した「著作物」に発生する権利のことです。法律上の例でいうと、例えば小説や脚本、講演などはこれに該当します。他にも音楽、美術、写真、建築なども、著作物に当たることは想像がつくかと思います。漫画なども文書と美術が複合的に結びついた著作物です。また、振り付けなどにも著作権が発生します。昨今ではSNSや動画サイトに、いわゆる「踊ってみた」動画が数多くアップロードされていますが、これも振り付けした御本人に無断で振り付けを流用した場合、著作権の侵害にあたる場合があります。映像も著作物に当たりますが、これは必ずしもテレビドラマや映画だけではありません。例えば、ゲーム実況動画なども多くは映画の著作物に該当します。

では、ご質問にあった「他社のロゴ」は著作物に該当するのでしょうか? こういうときは、逆に考えていくとわかりやすい。つまり、著作物に該当しないものは何かと考えていくわけです。著作物に相当しないものの例は次の通りです。「定型的な表現」「歴史的事象」「アイディア・方法論」「名称・単純なマーク」など。ロゴは、創作的な表現といえないようなかなり単純なマークの場合には、著作物に該当しないのですね。

この結果、ロゴは著作物に当たらないことが多い。ただし、ロゴは商標登録されていることが多いため、著作権とは別の配慮が必要だということにご留意ください。他社のロゴをトレードマーク的に使用する場合は、商標権の侵害に当たる場合があります。逆に、冒頭に示された写真のような「写り込み」の場合は、商標権の侵害も考えにくいし、ロゴが著作物かどうかに関わりなく、著作権侵害にも当たらない可能性が高いでしょう。

野口:なるほど。軽微な写り込みの場合は、権利侵害には当たらない可能性が高いということですね。これは企業のPRをご担当されているみなさんには、かなり有意義な情報なのではないでしょうか。かくいう私も、社内外からこの手の質問を多くいただくので、福井さんのご回答はたいへんためになります。

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福井健策さん。

ネット上の写真や資料を使いたい場合、気をつけるべきポイントは?

野口:2つ目の質問です。自社のWebサイトで他サイトの写真や資料を使う場合、条件や気にすべきことはありますか?

福井:まさに多くの方が悩まれている部分ですよね。この質問への回答は、著作権のルールそのものを解説することと同義ですので、通常2時間かかります。しかし、今日はポイントだけかいつまんで簡単にお話ししていきますね。

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福井:著作権やその仲間の権利にまつわる情報を1枚の表にまとめてみました。一番上の行に並んでいるのが使いたい素材の種類です。例えば左から2番目の上部にあがっている文芸や映像には基本、著作権が発生しています。そして一番左の縦には、おこないたい利用の方法が並んでいます。

さて、自社のWebサイトで他人の著作物を使用する場合、まずは法律上の「複製」に当たります。図表で赤い◯がついているケースは、権利者から利用の許諾を得る必要があります。また、Webサイトやネット配信は——これはライブ配信でも、社内のイントラネットでも同じで、法律上の「公衆送信」になります。他人の著作物を公衆送信する場合にも、著作権者の許可が必要になります。また例えば、このとき配信する映像に俳優やダンサーが出演している場合、この「実演家」にも著作権に近しい権利が与えられます(著作隣接権)。そういったものを配信する場合には、実演家にも許可を取らなくてはいけません。大切なことは、利用する作品をよくよく眺めて、そこにどんな要素が含まれ、どんな権利者がいるか理解しておくことです。その上で、それぞれの権利者に許諾を得るのが基本だということですね。

野口:この表は非常にわかりやすいですね。この表を参考にすれば、ある程度までは権利の所在を明らかにできそうです。

福井:権利の所在を明らかにする場合、よく言うのは作品を「分解してください」ということです。「これは映像だね」と言っているうちは著作権の所在は見えてきません。映像そのものも著作物ですが、そのベースには構成台本があり、音楽や画像、演技など様々な要素が複合的に映像を作り上げています。その全てに権利者がいるはずです。原則的には、その権利者全てに許諾を得なければ著作物は使えません。しかし、例えば映像の場合は配給会社などが権利処理を一手に引き受けていることもあり、その場合は個別の許諾は必要ありません。また、権利者の許諾を取らなくてもいい「例外」もあります。原則と例外、両方の知識を持っていることが、広報などの仕事では重要です。落とし穴にはまることなく、なおかつ萎縮しすぎてチャンスを逃すことがないように、このあたりの知識をしっかり身につけることが大切だと思いますね。

ウェビナーでYouTube動画を紹介するのはアリ?ナシ?

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野口:例えば、このウェビナーでYouTube動画を配信した場合、それは権利侵害になるのでしょうか?

福井:これ、悩む方も多いと思います。しかし、これには先ほどお話しした「例外規定」が適用されるんです。つまり、権利者の許可を得なくても動画が使える場合がある。では、代表的な例外規定をご紹介していきましょう。

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福井:まずは「私的複製」です。個人で楽しむ範囲ならば、著作物の複製は自由にできます。家庭内の視聴のためにテレビドラマの録画をしても罪に問われないのは、この例外規定があるからなんです。ただし、録画したものをネット上で配信するのは権利侵害にあたります。「せいぜい数十人の友達しか見ないから」という場合でも認められません。あくまで個人的な、私的な範囲の複製のみ認められるという点に留意してください。

冒頭にご紹介したロゴの写り込みも例外でして、これは「付随的利用」にあたります。また、先ほどの「ウェビナーでYouTube動画を配信した場合、それは権利侵害になるのか」というご質問に対しては「引用」の範疇であればOKということが言えます。つまり、ウェビナーの主目的がその動画を見せることではない場合——解説のための参考資料として必要な限度で見せる場合など——は問題ありません。ただし、引用する場合は、引用した著作物の出典などを明記し、自分の著作物ではないことを明瞭に示す必要があります。「広報での引用はできるのか」という質問もあると思いますが、これも商業利用の場合はさまざまな制約がつきますが、引用の条件を満たせばできます。

ジェネレーティブAIに著作権はあるのか?

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野口:昨今、話題の生成AIが作り出したものに著作権はあるんでしょうか?

福井:生成AIの話題は注目を集めていますよね。では、まず生成AIの仕組みを簡単におさらいしておきましょう。AIは既存の多くのデータを学習して賢くなります。絵であれ、文書であれ、音楽であれ、学習に適したデータセットによって機械学習が可能になる。次に、そのAIに何らかの指示/入力が加わります。「新作を作って」とか「〇〇風な絵を描いて」とかですね。その結果出力されたものが、AIによる生成物ということになります。

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右下はAIが作成した「高齢の裁判官の前に立つ弁護士、ディズニーアニメ風」の画像。

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福井:この学習には、さまざまな著作物が必要です。ですから、AIの機械学習はどこまで自由に許されるのかが、いま世界的な論点になっています。それからAIの生成物が既存の著作物と似てしまったらどうするのか。ここにも議論があります。著作権を侵害しているか否かは「依拠と類似性」という観点で判断されます。依拠とはある著作物が他人の著作物に「基づいている」ことで、一方、類似とは「似過ぎている」ことです。要するに、他人の作品に基づいていて、かつ似過ぎた作品が生まれたら著作権侵害にあたるというわけです。議論のポイントは、AIの学習は「依拠」なのかということですが、これについては肯定する人もいれば、否定する人もいます。よって、ここでは「AI生成物は著作権を侵害するリスクがあります」としか言いようがありません。ですので、企業はこの点のリスクマネジメントとして内部の「AIガイドライン」を作成するといいでしょう。画像生成時のNGワードや生成物の用途、公開前のチェック項目などを定めておくと良いと思います(ディープラーニング協会のガイドラインなど参照)。

そんなAI生成物の著作権侵害リスクに関しても議論がありますね。さて、冒頭のご質問への答えなのですが、結論から言えば「AIの生成物に著作権はない」というのが世界的通説です。人間の指示に基づいて生成が行われたとはいえ、やはりAIの生成自体には創作性がないとみなされています。AIに思想や感情はない、という理由がよく挙げられます。また、AIによって無数の生成物が生み出され、それらに100年のあいだ独占的な権利が与えられたとしたら、その影響は計り知れませんよね? そのほかさまざまな理由から、現状では多くの国でAIの著作権は認められていないんです。

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野口:とてもわかりやすい解説をありがとうございました。著作物の使用には、さまざまな知識が必要です。正しい知識を身につけて、コミュニケーションのリスクを回避していかなくてはいけませんね。

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